【抗議文】NHKはねつ造を認め、謝罪して事実を明らかにしてください |



【抗議文】
NHKはねつ造を認め、謝罪して事実を明らかにしてください
2022年1月28日
「オリンピック災害」おことわり連絡会
千代田区神田淡路町1-21-7静和ビル1階Aスペース御茶ノ水(ATTAC首都圏気付)
NHK会長 前田晃伸様
昨年12月26日、NHKは「河瀬直美が見つめた東京五輪」という番組を放送しました。その中で、「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」と発言したという字幕を付けて、「五輪反対デモに参加しているという男性」が画面に登場しています。この番組の中では、他のグループとともに私たちが呼びかけて行われた反対行動の様子や、バナーやプラカードなども映し出されています。そうした構成によって、この間何度も取り組まれた反オリンピック・パラリンピックの行動が、参加者を「金で動員」して集めているものであるかのような、悪質な印象操作がなされました。私たちも、行動をともに呼びかけた団体も、参加者を「金で動員」したり、「金で動員」されたりしたこともありません。この番組は、行動を呼びかけた人間のみならず、それらの行動に主体的に参加した多くの人びとへの侮辱です。そのようなデマ、ねつ造が行われたことに対して、私たちは「当事者」として強く抗議し、明確な謝罪を求めます。
その後NHKは、大阪放送局の名前で「男性が五輪反対デモに参加していたかどうか、確認できていない」ことがわかった、「NHKの担当者の確認が不十分」であった、「河瀨直美さんや映画監督の島田角栄さんに責任」はなく、「字幕の一部に不確かな内容があったことについて、映画製作などの関係者のみなさま、そして視聴者のみなさまにおわびいたします」という「謝罪コメント」を出しました。
私たちは、これは二つの面で決定的に不十分であるばかりか、果たされるべき責任を回避するものであると判断せざるをえません。
まず第一に、このねつ造報道によって、事実でないことを吹聴され、愚弄された、オリンピック反対運動に参加した人びとに対する謝罪が一言もないという点です。「デモの参加者が金で動員されている」というのは、SNS等で広く流布している悪質なフェイクですが、今回、責任ある報道をなすべき大マスコミが、なんの疑問も抱かずにそうした偏見を共有し、デマを垂れ流しました。その悪影響ははかりしれません。また「確認が不十分」であるという言い方も、「確認」されていないだけで実は反オリンピックのデモにその男性が参加していたのではないか、あるいは、参加すれば金を貰えたのではないかという憶測を生むものですらあります。NHKの番組による「報道加害」は、いまなお続いているのです。
第二に、河瀨直美氏や島田角栄氏に責任がないと断言している点です。そもそも問題の映像は、島田角栄氏が当該男性にインタビューしている場面を撮影したものです。そのインタビューが島田氏に主導されている限り、NHKで付けたという字幕も、島田氏の意図をくんだものと考えるのが普通です。さらに、島田氏のインタビューは、今年の6月に公開予定である、河瀨直美氏が総監督を務める東京オリンピック公式記録映画の「素材」として撮られていたものです。番組では、河瀬氏と島田氏が、撮影された映像をチェックしている場面も映し出されていました。河瀬氏は、このときの映像に問題の場面は含まれていなかったと述べていますが、にわかに信じがたい主張です。二人とも被害者のような立場で発言していますが、自らが密着取材され、公式記録映画の一部となるかもしれない場面が含まれているこの番組の映像を、事前にチェックしていないとは考えられません。番組の中では、島田氏が「プロの反対側」も存在するなどと語り、河瀬氏もまた一生懸命オリンピックに関わる人に寄り添うのは「人間として当たり前」などといっています。さらに河瀬氏は、私たちや、他のグループの行動の参加者を、無断で撮影したりしています。自らの意図とは違う意見の人に対してであれ、「取材対象者」に対するこのような高慢な姿勢は、報道倫理からいっても許されるものでしょうか。こうした経過やその後の対応にも、河瀬氏や島田氏、そしてNHKの「担当者」が、オリンピックに反対する人間は特異な存在であって、まともに相手にする必要はないのだ、と考えていることが見て取れるのではないですか。
河瀬氏と島田氏は無関係であり、むしろ彼らに迷惑をかけたと謝罪するNHKの論理には、実は、河瀬氏と島田氏に批判の矛先が向かわないようにするために、「NHK担当者」のチェックミスであるということで幕引きを図ろうという思惑が働いているのではないかと思われてなりません。新型コロナの蔓延下、多くの人びとの反対を押し切って強行されたオリンピック・パラリンピックの負の遺産を、未来に残すべき「レガシー」として語り直し、塗り替えていこうとする、オリンピック推進派の動きがあります。今回の件も、これと歩調を合わせ、共謀する行為に他ならないと私たちは考えています。
すでにNHKは、長野での「聖火」リレー中継の際の抗議の声をカットするなど、意図的な報道操作を行ってきました。安倍首相の「アンダーコントロール」発言からはじまり、招致にまつわる買収疑惑、膨大にふくれあがった予算、破壊された人びとの生活など、報道機関がきちんと報じなければならなかった、さまざまなウソと利権がありました。NHKはそれをどこまできちんと報じたでしょうか。逆に、とりわけ大会開会後は、オリンピックの翼賛報道に終始したのではなかったでしょうか。それらのことは今後も検証されなければなりません。
今回の番組についても、事実経過は充分明らかにされたとはいえません。NHKと島田氏の「説明」にすら食い違いがあります。NHKは報道の社会的責任を果たすという立場に立って、今回の番組製作にあたっての事実を明らかにし、その意味を再検証し、謝罪すべき人たちに謝罪してください。