【資料】No温暖化、No戦争 ミリタリズムと気候危機はいかに悪化させ合うか |




2020年4月にアメリカで発表された提言。作成したのは1963年にアメリカで設立された革新的シンクタンク、Institte for Policy Studies(政策学研究所)のNational Priorities Project(国家優先課題プロジェクト)のLorah Steichen(ローラ・ステイチェン)さんとLindsay Koshgarian(リンジー・コシュガリアン)さん。
【要旨】
気候危機とそれに対するアメリカ(特にペンタゴン)の姿勢を分析し、これからのあるべき姿を示唆。
ペンタゴンは2003年にはすでに、国家安全保障(軍事作戦の遂行)にとって気候変動が差し迫ったリスクであることを認識しており、連邦政府が環境問題に関して有意義な議論をしなくなってからも、その対策を検討していた。
その基本姿勢は、あくまでもミリタリズムによって自国(国益、国境)を守る、というもの。具体的には、気候変動により飢えと疫病、そしてその結果世界中で対立や衝突が生じた際には、軍隊の存在を国内外で前面・全面に出し、国益・国境を守り、対立を阻止するというもの。
再生可能エネルギーへの移行も大いに検討されてきたが、それは環境のためではなく、あくまでも化石燃料の束縛から解放されて軍事活動の継続をより確実なものにするため。
世界規模で見れば、最も気候変動の影響を受けているのは、そのための対策を講じるすべを持たない場所(南の発展途上地域)。何世紀にも及ぶ植民地政策、代理戦争、ネオリベラル経済に気候変動、そしてそれらに加えてCOVID-19の脅威。今必要なのは、戦争(war)の文化から気配り(care)の文化への速やかな転換である。
【本文からの抜粋】
気候正義の達成のために
人々とエコシステムに有害な搾取経済を再構築する
搾取経済が機能し続けるのは、暴力と抑圧の後ろ盾があるから。ミリタリズムに対抗し、活力あるコミュニティーとエコシステムを支える経済システムを、公正な移行(Just Transition)を通じて確立する。
本当の意味で社会に役立つ産業・社会制度(教育、公共交通手段、医療、住宅など)に予算を使う。
平和活動家と労組が協働し、時代に見合った『公正な移行(Just Transition)』、つまり円滑な雇用移行構想の土台を作る。
再生可能エネルギー産業への投資。100万ドルの支出で生まれる雇用:軍事関連6.9、風力産業8.4、太陽光産業9.5
低炭素職業とも表現されるケアワーク(care work)への投資を増やす。教育、子育て・保育、介護といった社会と経済一般に多大な影響力を持ち、かつ欠くことのできない職業について、その仕事環境を整え雇用を増やす。100万ドルの支出で生まれる雇用は、軍事関連で6.9、教育分野では15.2(しかも高報酬)
雇用保障政策の確立。グリーン・ニュー・ディール(Green New Deal)のような政策実現のためには、化石燃料産業、および軍事関連産業からグリーン産業へと速やかに移行できるよう、雇用を保障することが必要。現在の連邦政府の失業対策プログラムの主要なものは軍部によるもの。
ミリタリズムに対抗する。気候正義達成には、世界規模の協働と思いやり(ケア)が必要。気候危機は一国の安全保障の問題ではない。ミリタリズムで気候変動に対応しようという考えは全くの見当違い。反軍事主義こそ気候危機対策の中核にあるべき。
世界一の化石燃料消費組織である米軍の気候変動のインパクトへの考慮は主に次の3点:1)海面上昇や森林火災が及ぼす軍のインフラへの影響 2)燃料のグリーン化 3)新たな国への脅威への対応(特に移民)
これらに対応するため、より軍部を強大化させる必要がある、というのが国防総省の考え。この背景があって、軍関連企業も自らを気候危機のソリューションとしてプロモートし始めている。
燃料のグリーン化に関しては、バイオ燃料や原子力への移行が議論されているが、バイオ燃料はカーボンニュートラルではないし原子力の安全性に保証はない。どちらにしても燃料のグリーン化で米軍が暴力的・抑圧的でなくなるわけではない。これは気候変動対策としてのグリーン化とは全くの別物。
安全保障のためと始めた戦争(イラクやアフガニスタン)に年7千万ドルが費やされるも、それで実現された安全はどこにも確認できない。武力ではなく、国際協力と外交に資金を使え。
連邦政府が軍事予算を増やす→関連企業が潤い影響力を増す→それを助長する法や政策を通過させる、という悪循環を断つ。化石燃料関連企業も構図は同じ。巨大な資産と影響力で気候危機を悪化させるような政策にも意見を反映させている。
国境の武装強化と気候変動の密接な関係。気候変動で増加する移民対策(移民排斥政策)のため、軍や企業(監視、収監、国外追放)へ過剰な投資がなされており、アメリカは国境線を越えて移民対策を強化している。将来的に気候変動で生まれる移民の数は戦争による移民の数を上回ると考えられる。気候移民に対する国際法は不十分で、あるのは壁と監視と武装警備、というのが現状。気候正義と移民正義は切り離しては考えられない。
連邦政府予算の使途見直し
石炭・石油・ガスへの直接あるいは間接的助成金の廃止。ペンタゴンに独占されている資金を見直せば気候正義を達成するための資金は十分ある。2020年、米軍事予算は再生可能エネルギー・省エネ対策予算の272倍。過去20年で米が戦争に費やした金額が6.4兆ドルに対し、次の10年で国内のエネルギーを再生可能エネルギーに転換するのに4.5兆ドルが必要であるという試算がある。真の安全保障を実現するには、戦争をやめ、国外への強硬姿勢を正し、軍事関連の契約を打ち切る必要がある。
人種差別・人種抑圧に対抗する。搾取経済の根本にある差別、「特定の人間・特別な人間だけが豊かに生きられればいい」という認識やそれに形作られた枠組みの正体を見極め、対抗する。
Global Witnessによれば、土地と環境を守ろうと行動を起こした人が週3人以上命を落とし、それ以上の人が犯罪者として捉えられている(2018年)。米国内も同様。デモを鎮圧する武装警察組織は催涙ガス、ゴム弾、サウンドキャノンやウォーターキャノンなど、軍や米国土安全保障省から払い下げられたものも使用。
気候正義の達成には世界的な協働が必要。
そのための原則:
1 人の命にはそれが誰であれ同じ価値がある
2 人と地球が健全であるとき、経済もまた健全である
3 全ての民族は自決権を持つ
4 地球には、誰もが生きるために十分なものがある
5 全てのものは相互に繋がり、関わり合っている

