【寄稿】「武器より暮らしを!市民ネット」の活動を振り返って |






新型コロナ禍の現在、「武器よりコロナ対策を!」の声を大きくあげる時です。
「死の商人」のためでなく、私の暮らしに予算を回せ!~「武器より暮らしを!市民ネット」の試み
杉原浩司(武器取引反対ネットワーク[NAJAT])
「武器より暮らしを!」。シンプルだが根源的なスローガンを掲げて、軍事費を社会保障や教育に回せと訴えるキャンペーンの2期目の取り組みが大詰めを迎えている。背後にあるのは、米国製などの高額武器のあからさまな爆買いが誰の目にも明らかになってきたことだ。
最初の試みとなった2018年度は正味2カ月ほどの短期集中型だったため、2019年度はもう少し余裕をもって動いていこうと、昨年11月15日に「武器より暮らしを!市民ネット」の結成会見と院内集会を行った。念頭に置いたのは、裾野をより広げること。ゲストスピーカーに、学費、年金、生活保護、原発被災者などの課題に加えて、気候危機問題に取り組むFoE Japanの吉田明子さんを招いたこともその表れだった。
武器は「市民の安全」を大義名分に導入される。しかし現在、市民の生存と生活を脅かしているのは、災害や気候危機、貧困や感染症など「いまそこにある危機」の存在だ。それらに予算を優先的に配分することこそが政府の役割のはずだ。
政府予算案が閣議決定され、史上最高を更新する5兆3133億円の軍事費が計上された12月20日には、タイムリーに抗議声明を公表した。
年が明け、2月18日には立憲野党の国会議員へのロビイングと防衛省交渉を行った。交渉では、候補地とされた秋田、山口の住民の反対の声を蹂躙する「イージス・アショア」予算の計上に強く抗議。また、昨年11月に幕張メッセで開催された総合武器見本市「DSEI Japan」で配布された公式ガイドに「日本国憲法が一部改正(change)された」と書かれていたことを、防衛省が事前質問を見るまで認識していなかったことも発覚した。
同時に、武器爆買いを批判するアクションシートも制作。表面で総経費6.7兆円に及ぶF35戦闘機と導入費が6000億円を超えるイージス・アショアをクローズアップし、裏面で大軍拡の特徴と暮らしに関わる予算の削減を伝えている。安倍首相への抗議はがきを組み込み、A3版カラーで迫力あるものに仕上がった。
予算組み替えの実現を
3月5日には、予算全体を俯瞰しつつ、軍事費の問題点を見つめようと、「武器爆買いより暮らしに回せ!大軍拡予算案の組み替えを求める」と題した院内集会を開催。約60人が参加した。白川真澄さん(季刊『ピープルズ・プラン』編集長)は、安倍政権が掲げる「全世代型社会保障改革」について、「若い世代や現役世代への給付を増やす分だけ、高齢世代への給付を削る(自己負担を増やす)もの。むしろ世代間の対立を煽り、社会の分断を深める」と厳しく批判。「連帯・助け合い型」でなく「自己責任型」社会をめざそうとしていると指摘した。財源拡大の議論はせず、どこを削るかの議論に終始しているとして、市民運動と野党共闘が「富裕層と大企業への課税強化で自己負担なき社会保障の実現」を掲げて、安倍政権に対抗すべきだと主張した。
前田哲男さん(ジャーナリスト)は、「国庫債務負担行為」という名の武器ローンの拡大について、
「日中戦争開戦の年に『臨時軍事費』が使い道を明らかにしない第二の予算として作られ、本予算に匹敵するまでに肥大したことを思い起こさせる」と批判。そのうえで、「宇宙・サイバー・電磁波」という新領域への「垂直軍拡」と、「自由で開かれたインド太平洋」への「水平軍拡」の同時進行に警鐘を鳴らした。「専守防衛」を実態化させ、自衛隊の変貌を阻止するためには、護憲側の「対抗構想」が欠かせないと締めくくった。この辺りの論点は別途深める機会を持ちたいところだ。
予算案は2月28日に衆議院を通過し、年度内成立が確実となった。カジノを解禁する統合型リゾート(IR)関連費を削除し、新型コロナウィルス対策費に振り向けるよう求める野党の組み替え動議は否決された。桜を見る会、黒川検事長の定年延長、そして新型コロナウィルス問題と、次々と大きな問題が噴出する中で、大軍拡予算の問題は後景に退いてしまっている。
困難な状況でもできることをやっておこうと、現在、財務省に文書質問を提出しており、まもなく回答が届く予定だ。補正予算への武器購入費の盛り込みや武器ローンの際限なき拡大を放置する財務省に対しても追及が必要だと発案した。来年度は財務省による査定の前に、担当者を呼んでの交渉も企画したいと思う。
また、社会保障費や公共事業費、文教費や科学技術費など、分野ごとの予算を精査する作業を持ち寄って、予算案の全体像と問題点を浮かび上がらせるような取り組みができるといいと思う。個々の課題に取り組む団体・個人にそうした作業を呼びかけてみたい。
最近、防衛装備庁の大規模軍事研究(上限20億円)に採択された筑波大学への軍学共同反対連絡会による申し入れに参加した。「研究成果を武器開発に利用させないための保証措置はあるのか」の問いかけに、研究推進部長はだんまりを決め込んだ。血税が公然と軍事研究に用いられる事態を前に、予算の使い道は私たち主権者こそが決めるべきものだと改めて自覚した。
一ヶ所の修正もなく原案が通ったり、補正予算があっという間に採決されるなど、予算審議のあり方自体にも厳しい目を向けていくべきだろう。様々な宿題を次年度の取り組みに着実に活かしていきたい。
※「武器より暮らしを!」アクションシートをご活用ください。1枚10円、送料無料でお送りします。
ご注文はメール anti.arms.export@gmail.com または 090-6185-4407(杉原)まで。枚数、お名前、送付先、電話番号をお知らせください。