【論考転載】巨額の攻撃型武器購入で「専守防衛」終焉へ(『市民の意見』2/1号) |
巨額の攻撃型武器購入で「専守防衛」終焉へ
危険な新防衛大綱を破棄させ、軍縮計画の大綱を
杉原浩司(すぎはらこうじ/武器輸出反対ネットワーク[NAJAT]代表)
政治主導と武器主導
憲法9条を一字一句変えずに保持する日本で、国際武器見本市(注1)が堂々と行われるようになった。昨年11月末に東京で開催された「国際航空宇宙展」を訪れて痛感したのは、F35戦闘機、長距離巡航ミサイルなど「売約済み」の武器の増加だった。
昨年12月18日、新たな「防衛計画の大綱」(大綱)と「中期防衛力整備計画」(中期防)が閣議決定された。本稿では、主に大綱を武器の視点から読み解きたい。
内容に立ち入る前に、メディアが指摘しないそもそも論から。一国の安全保障政策の基軸となる大綱と、それに基づく武器調達計画である中期防を、国会にすら諮らず、閣議決定だけで決めるのはおかしい。中期防は、向こう5年の軍事費を、それまでの5年分を2兆8000億円も上回る27兆4700億円とした。これほど巨額の支出を閣議で勝手に決めるなど論外だ。
今回の策定プロセスの特徴は、政治主導・官邸主導となったことだ。従来の大綱は、防衛省が原案を作っていたが、今回は国家安全保障会議(NSC)とその事務局が主導した。その結果、今まで無視されがちだった自民党国防族による「大綱への提言」の大半が採用された。半田滋は「『背広を着た関東軍』ほどおそろしいものはない」(12月24日、東京)と警告している。また、元海将の伊藤俊幸も「あらゆるものが自衛隊の現場の意見を吸い上げたのではなく、政治からのトップダウンで決まったとの印象だ」(12月19日、毎日)と批判している。
さらに、政策の大転換を「従来と変わらない」と強弁するのも度し難い。「専守防衛」を逸脱する武器の保有を「専守防衛に変わりはない」とごまかし、空母を「多機能の護衛艦」と言い換える手法は汚いとしか言いようがない。
今回特筆すべきなのは、防衛省幹部が「順序が逆」と述べるように、攻撃型武器の導入を先行させ、大綱や中期防でそれらを「後付け」たことだろう。イージス・アショアや長距離巡航ミサイルなどは、2018年度予算に既に盛り込まれていた。一方で、大綱の上位にある「国家安全保障戦略」の改定は見送られた。トランプ政権への迎合を背景に、武器の導入が安全保障政策を変質させるという危険なプロセスに入ったのではないか。
「先取り壊憲」の総仕上げ
大綱全体の狙いについては、柳澤協二による「日米の軍事的一体化の完成と自衛隊による打撃力の保有」(12月19日、東京)との指摘が的を射ている。それは、「解釈改憲=先取り壊憲」の完成ではないだろうか。昨年10月3日に出された最新のアーミテージ・ナイ報告から「9条改憲」の要求が姿を消したことは象徴的だ。明文改憲を待つことなく、実質的な改憲が行われていることへの危機感を感じとれるかどうかが問われている。
内容の具体的な検証に入ろう。第一に、大綱は、安保法=戦争法の発動を具体化するものだ。いずも型護衛艦(ヘリ空母)を改修した空母では、米海兵隊や英海軍のF35B戦闘機による離発着訓練が実施され、その先に他国への攻撃を準備する機体への艦上給油などの作戦支援が待っている。これは、まさしく安保法が想定していた、武力行使への一体化だ。
第二に大綱は、憲法9条の理念に基づき「国是」の一つとして維持されてきた「専守防衛」を武器の面から終わらせる。「攻撃型兵器の不保持」という原則が放棄されるのは明らかだ。空母保有に加えて、長距離巡航ミサイルの導入や、高速滑空弾・極超音速ミサイルなどの研究開発に踏み込む。憲法9条2項に基づく歯止めは取り払われ、予算の制約以外に、保有する武器を抑制する論理は存在しなくなる。際限なき軍拡の始まりだ。
対中シフトへの傾斜
第三に、朝鮮半島情勢の転換を不問に付しながら、「対中国シフト」を前面化させている。大綱には、歴史的な南北・米朝首脳会談についての言及は一切なく、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)を「我が国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威」とステレオタイプに強調している。そのうえで、中国脅威論にスペースを大きく割き、南西諸島の大軍拡をさらに加速させようとしている。
陸海空共同の「海上輸送部隊」を新設し、燃料・弾薬・部品の供給や整備の拠点を南西諸島に設置する。2026年度にも新設される「島しょ防衛用高速滑空弾部隊」も明らかな中国シフトだ。長距離ミサイルの保有も島しょ防衛を名目としており、「総合ミサイル防空能力」保有も中国を意識し
たものだ。
第四に、トランプによる「バイ・アメリカン(米国製を買え)」要求に応えて、米国製高額武器の爆買いがエスカレートしている。2019年度予算案では、悪名高い米国優位の武器取引方式である「FMS」(対外有償軍事援助)が2012年度の約5倍の7013億円にまで膨脹した。イージス・アショアは総額でなんと6000億円を超えることが判明した。また、当初は42機(F35A)の導入予定だったF35戦闘機は、105機もの追加購入(うち42機はF35B)が決まった。維持費も含めると、総額で6.2兆円という莫大な支出となる。F15戦闘機のうち改修不能なタイプの99機との入れ替えが名目だが、F15の退役時期は未定だ。そこで浮上したのが、中古のF15をF35購入費の原資に充てるために米国に輸出する構想である(12月24日、日経)。しかも、米国は日本から輸入したF15を東南アジア等に売却することを検討しているという。これは、日本の戦闘機の迂回輸出に他ならない。
「軍拡か軍縮か」を争点に
米国製武器の爆買いにより「後年度負担」と呼ばれる武器ローン(残高は2018年度で5兆円超)の返済が急増したため、防衛省が国内軍需企業に、納入される武器代金の支払い延期を要請していたことさえ明らかになった(12月20日、東京)。結局、企業の反発により支払い延期は断念されたが、あまりにもいびつだ。
米国製の無人攻撃機「アベンジャー」を海上自衛隊に導入する検討も始まった(11月9日、読売夕刊)。製造元のジェネラル・アトミクス社は、米国による中東での残虐な無人機戦争で多用されている無人攻撃機「プレデター」「リーパー」が看板の「死の商人」である。かつてなら想像できない事態だ。
第五に、大綱のキャッチフレーズである「多次元統合防衛力」について。宇宙、サイバー、電磁波といった新領域を融合させるというが、宇宙に関しては、2022年度までに「宇宙領域専門部隊」を新設するという。岩屋防衛相は既に、米国が設立を目指す「宇宙統合軍」との緊密な連携を表明している。トランプ政権が1月17日に公表した「ミサイル防衛見直し」は、ミサイルを追尾するセンサーやミサイルを破壊する迎撃システムを宇宙空間に配備するための研究を進めることを表明した。また、「日本版GPS」とされる準天頂衛星を日米一体で軍事利用しようとしている。危険極まりない動きだ。
こうした歴史を画する大軍拡に、どうすれば対抗できるだろうか。通常国会で立憲野党がしっかりとした論戦を挑むのは当然だが、市民が軍拡反対の大きな世論を作ることが不可欠だ。大綱と中期防を破棄し「軍縮計画の大綱」を策定することを立憲野党の共通政策にさせたい。それを、来るべき参院選における一大争点に押し上げていくべきだろう。
NAJATでは、軍拡予算や新大綱に反対する新たな枠組み(注2)を作り、集中的な取り組みを展開したいと考えている。ご参加、ご協力を呼びかけたい。
注1)2019年には幕張メッセで2つの国際武器見本市が予定されている。
[6月]MAST Asia 2019 https://mastconfex.com/asia2019/
[11月]DSEI JAPAN https://www.dsei-japan.com/
注2)NAJAT、社会権の会、大軍拡と基地強化にNO!アクション2018の呼びかけで発足した「武器より暮らしを!市民ネット」が様々な取り組みを展開した。
会見・院内集会報告 https://kosugihara.exblog.jp/239140012/
参院会館前アピール報告 https://kosugihara.exblog.jp/239150545/