毎日新聞大阪本社版に武器輸出に関するインタビュー記事が掲載されました! |
そこが聞きたい
防衛装備移転三原則 武器輸出反対ネットワーク代表・杉原浩司氏
(2017年3月16日、毎日新聞大阪本社版・朝刊)
http://mainichi.jp/articles/20170316/ddn/004/070/048000c
※配布・販売エリアは、北陸、近畿、四国、中国(山口県を除く)地方です。
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「死の商人国家」化を懸念
武器輸出を事実上禁じてきた「武器輸出三原則」=1=に代わる新たな「防衛装備移転三原則」を打ち出した安倍政権は、武器輸出に積極的だ。平和国家日本の姿を変えるこの事態に歯止めをかけようと活動する武器輸出反対ネットワーク(NAJAT)代表・杉原浩司さんに話を聞いた。【聞き手・湯谷茂樹、写真・小川昌広】
--武器輸出反対ネットワークについて教えてください。
「積極的平和主義」を掲げる安倍政権は2014年4月、武器輸出を禁じてきた武器輸出三原則を、国会に諮ることなく閣議決定のみで撤廃し、防衛装備移転三原則を策定しました。
国策として武器輸出を進めるこの政策転換を受け、フランスで開催された兵器見本市「ユーロサトリ」に日本企業が初めて出展し、当時の防衛省装備政策課長がイスラエルの無人機と日本の技術を組み合わせる可能性について発言する様子がテレビで紹介されました。イスラエルの無人機によってパレスチナでは多くの子どもや女性が犠牲になっています。このままでは「死の商人国家」になってしまう。そんな思いで15年12月に武器輸出反対ネットワークを発足させました。
--どんな活動をしていますか?
武器を輸出しようとしている企業に「死の商人」にならないでほしいと働きかけることを中心に活動しています。申し入れや署名の提出、集会などでチラシを配ってファクスやメール、はがきなどで「死の商人にならないで」という声を届けるよう呼びかけています。シンポジウムの開催や防衛装備庁からのヒアリングなども行っています。
--武器を輸出しようとする企業はもともと防衛産業です。輸出で何が変わるのでしょう。
日本の防衛産業が武器を売ってきた自衛隊は、憲法9条のもとで自衛のために存在していました。安倍政権が成立させた安保法制で、海外の戦地への派遣も可能となりましたが、今までは日本を防衛するためだけに使う武器だったんです。
武器輸出になると、他国の戦闘で使われるわけです。今の中東を見ればわかりますが、武器は軍と軍との戦闘で使われるだけでなく、多数の民間人を殺傷します。武器輸出について「死の商人」という言葉を使うのは、そういう意味なのです。
--オーストラリアへの潜水艦輸出が注目されました。
安倍政権が武器輸出解禁を決め、国家安全保障会議(NSC)が最初にOKを出したのは二つの案件です。一つはPAC2という地対空誘導ミサイルの部品の輸出で、米国のライセンス生産を三菱重工がしています。米国で作らなくなったので、それを米国に輸出するというものです。もう一つは、ミサイルの性能を向上させる英国との技術研究を三菱電機がする案件です。
三菱重工と川崎重工の潜水艦より先にミサイルが動き出しました。このほか、インドへの飛行艇輸出をめざす新明和工業、NEC、富士通、富士重工、東芝、IHIなどにも武器輸出に関わる企業として、輸出をやめるよう働きかけをしています。
--反応はどうですか?
武器輸出について、確信犯といった印象を受けた企業、戸惑っている印象の企業がありました。企業に対する否定的な評判が広まって企業イメージが低下する「レピュテーションリスク」という言葉があります。民生品を多く生産している企業は、武器輸出によるネガティブなイメージが広がることを恐れているように感じました。
欧米の軍需企業に比べ、日本の防衛関係企業の軍需比率はとても低いんです。三菱重工、川崎重工は約1割ですが、その他は数%。私たちはいま、武器生産をやめてと言っているわけではなく、武器輸出をやめてと言っているんです。日本が輸出したり共同開発したりした武器で、他国の市民を殺傷してほしくないからです。もし中東などでそうした事態になれば、平和国家日本への信頼がさらに崩れ、「テロ」の対象になる危険性も高まります。
--武器輸出の現状はどうなっているのでしょうか。
武器輸出解禁からまもなく3年ですが、武器本体の輸出はゼロです。潜水艦や英国への哨戒機も失敗し、うまくいくと思っていた飛行艇も見通しが立ちません。
しかし、防衛装備庁は武器輸出が仕事なので、世界中に触手を伸ばして、具体化に動いています。
新年早々、ニュージーランドに川崎重工の哨戒機と輸送機を輸出する交渉が進められていることが報じられました。さらに、米軍装備に採用できる研究に関する調査が昨年11月、経済産業省が仲介して秘密裏に行われ、60社が説明会に参加。18社が米軍側と個別面談したことも報じられました。
--そもそもどうして政府は武器輸出に前向きなのですか。
安倍政権が成長戦略に位置づけているからです。元経産官僚の古賀茂明さんは「悪魔の成長戦略」と言いましたが、その通りです。
また、日本が持つ人工知能(AI)やロボット、素材などの進んだ技術を米国が活用しようとしていることも一因です。米国は、中国やロシアに対する軍事的優位を保つために民間の技術なども最大限武器開発に取り入れる第3の相殺(オフセット)戦略をもっています。そこに、日本も従属的な形で取り込まれようとしているのです。つまり、米国の軍産学複合体に、安倍政権が作ろうとしている日本の軍産学複合体を融合させる動きです。
--軍産学では、大学の軍事研究=2=も問題になっていますね。
防衛省は、税金で大学や研究機関に軍事研究をさせる安全保障技術研究推進制度を15年度にスタートさせました。予算は3億、6億から110億円と激増しています。この制度も、米国の第3の相殺戦略に従属する一環だと思います。いま、日本に軍産学複合体ができてしまえば、米国のように戦争を欲する国になってしまいます。今ならまだ止められます。
<聞いて一言>
武器輸出反対ネットワークの呼びかけで2月に行われた神戸の二つの企業への申し入れに同行した。その際に企業の前に掲げられた横断幕にあった「死の商人にはなりたくない」の言葉が、心に重く残った。
両社に話を聞くと、「政府が進めていることなので……」と困惑しているともとれる言葉も返ってきた。海外の紛争に手を貸したいと思う人は、多くはないだろう。政治主導の武器輸出には、違和感を禁じ得ない。「今ならまだ止められます」。杉原さんの言葉を受けとめたい。
■ことば
1 武器輸出三原則
1967年に佐藤内閣が共産圏や紛争当事国などへの武器輸出を禁じ、76年に三木内閣が全面禁輸へ拡大。その後、米国向け技術供与などの例外が設けられ、2011年には野田内閣が日本の安全保障に資する場合について国際共同開発・生産を容認。安倍政権が14年に廃止し、武器輸出を解禁。
2 大学の軍事研究
科学者の代表機関・日本学術会議は1950年と67年に軍事目的の研究を拒否する声明を決議。近年、研究予算抑制などの事情もあり、防衛省からの予算獲得をめざす研究者もおり、学術会議が対応を検討。今月、過去の声明を「継承する」新声明案をまとめた。
■人物略歴
すぎはら・こうじ
1965年、鳥取県生まれ。京都教育大中退。武器輸出反対ネットワーク(NAJAT)代表。緑の党脱原発・社会運動担当。共著に「武器輸出大国ニッポンでいいのか」(あけび書房)など。