【資料】共同通信「イスラエルと無人機共同研究へ」記事 |

この記事は7月1日付の山形新聞、岐阜新聞、中国新聞、山陰中央新報、高知新聞、大分合同新聞などに一面トップで掲載されました。新聞により、全文掲載から一部掲載まで幅はありますが。
※なお、「解説」のところに、「閣議決定した定義は「国連安全保障理事会が制裁決議などの措置を取っている国」であり、世界中で北朝鮮だけが該当する状況だ。」とありますが、国連安保理決議で武器輸出を禁じているのは現時点で11ヵ国(北朝鮮、イラク、ソマリア、リベリア、コンゴ民主共和国、スーダン、コートジボワール、レバノン、エリトリア、リビア、中央アフリカ)あります。
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<共同通信 2016年06月30日>
イスラエルと防衛装備研究
無人偵察機、準備最終段階 「新三原則」で初 アラブ諸国反発も
防衛装備庁がイスラエルと無人偵察機を共同研究する準備を進めていることが、30日までの日本政府関係者や両国外交筋への取材で分かった。既に両国の防衛・軍需産業に参加を打診しており、準備は最終段階という。
パレスチナ問題を抱えるイスラエルは旧・武器輸出三原則で禁輸対象だった「紛争当事国になる恐れがある国」に当たるが、安倍政権が2014年に閣議決定した防衛装備移転三原則(新三原則)によって、初めて装備・技術移転が可能になった。
国家安全保障会議(NSC)が最終判断するが、安倍政権はイスラエルとの関係強化を図っており、共同研究に踏み切る可能性が高い。装備庁は無人攻撃機、無人戦闘機を含めた共同開発に発展させたい考えで、アラブ諸国の強い反発も予想される。
防衛装備庁の渡辺秀明(わたなべ・ひであき)長官は「イスラエルとの間で無人機の共同研究について、具体的な準備を行っているという事実はない」としている。
イスラエルの担当当局は、国防省の対外防衛協力輸出庁(SIBAT)。同国の無人機技術は世界最高レベルとされ、実戦でもパレスチナ自治区ガザ地区やレバノンなどへの攻撃に投入している。関係者によると、共同研究は、イスラエルの無人機技術に日本の高度なセンサー技術などを組み合わせる狙いという。
装備庁とSIBATは航空・宇宙システムの大手軍需産業「イスラエル・エアロスペース・インダストリーズ」(I・A・I)、軍需エレクトロニクス企業「エルビット・システムズ」などに参加を打診。2社は共同通信の取材に対し「答えられない」としている。
日本の防衛産業は、三菱電機や富士重工業などで、三菱電機は取材に「個別の案件については回答できない」とコメント。富士重工業広報は当初取材に「事実関係を承知しておらず、コメントを控える」と回答、その後担当部署に確認し「そうした事実はない」と変更した。
防衛省は米軍が運用している無人偵察機グローバルホークの導入を決めているが、関係者によると、イスラエル製無人機は同じ性能でも価格は米国製の数分の1から10分の1程度。操縦が容易なのも特長で、装備庁は将来的にイスラエルとの共同開発機を後継にしたい考えとみられる。(共同通信編集委員 石井暁)
背景に安倍政権の強い意志
イスラエルと防衛装備研究
【解説】
防衛装備庁がアラブ諸国の反発というリスクがあるにもかかわらず、イスラエルとの無人偵察機の共同研究に踏み出そうとしている背景には、広く武器輸出の道を開きたい安倍政権の意志がある。
政権は当初、旧・武器輸出三原則が禁輸先としていた「国際紛争の当事国やその恐れがある国」という項目を、防衛装備移転三原則(新三原則)で全面削除することを狙った。「完全なフリーハンドを得たかった」(政府筋)からだ。
ところが、公明党が「平和主義の理念を揺るがしかねない」と強く反発。禁輸先に「国際紛争の当事国」は残されたが、閣議決定した定義は「国連安全保障理事会が制裁決議などの措置を取っている国」であり、世界中で北朝鮮だけが該当する状況だ。歯止めは、事実上なくなったといえる。
この結果、イスラエルへの武器輸出は解禁された。同国はパレスチナ自治区ガザ地区やレバノンなどへの軍事行動を繰り返しており、共同研究や共同開発が、武力行使への加担につながる可能性がある。
旧三原則は、戦後日本の平和主義を支える政策だった。イスラエルとの共同研究参加を打診された企業の一部には、「死の商人」のイメージを持たれることを嫌い、参加をちゅうちょする声があるという。それも旧三原則の長い歴史に裏打ちされた国民の受け止め方を意識するからだろう。
新三原則について、国会では本格的な議論は展開されてこなかった。具体的に動きだす前に、いま一度原点に戻って議論する必要があるのではないか。(共同通信編集委員 石井暁)
強い衝撃、外交に影響
<学習院大法科大学院の青井未帆(あおい・みほ)教授(憲法学)の話>
強い衝撃を受けるとともに驚いている。アラブ諸国は日本を平和国家と捉えているはずで、外交にも影響が出るのではないか。今の日本には「安全保障や国防に関係するのであれば、情報が開示されないのは当たり前」と受け取る風潮があり、非常に危険だ。武器は人を殺すもの、それを容易にするものだということにもっと敏感であるべきだ。「日本は平和国家ではなくなった」と受け止められ、これまで築いてきた信頼が突然断ち切られる時が来るのではないか。
技術面のメリット大きい
<佐藤丙午(さとう・へいご)拓殖大教授(国際関係論)の話>
無人機技術の開発を巡り、米国や中国、欧州各国がしのぎを削る中、日本だけが立ち遅れているのが現状だ。この分野で世界最先端の水準にあるイスラエルの技術に日本の企業が触れることができるのは、遅れを挽回する意味でメリットが大きい。一方、イスラエルのパレスチナ自治区ガザ地区への攻撃に対する批判や、イスラエルとの共同研究がアラブ社会からの反発を招くとの指摘も理解できる。政府は政治的なデメリットよりも、技術的なメリットを取る道を選択したということだろう。