アジア太平洋リサーチネットワーク(APRN)総会記念シンポでのスピーチ原稿 |
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戦争を欲する日本版「軍産学複合体」をつくらせない
~東アジアの持続可能な平和構築に向けて
杉原浩司 武器輸出反対ネットワーク(NAJAT)代表
東アジアは冷戦構造が未だに残り、大規模な軍隊が対峙しています。この間の北朝鮮と米国による軍事的な挑発の応酬は、改めて、冷戦を熱戦に変えてはならない、そして、一刻も早く冷戦を終わらせなければならないということを示しました。米国の先制攻撃が強行され、米朝戦争が勃発すれば、甚大な被害を受けるのは北朝鮮と韓国、そして日本の市民です。軍事的選択肢はあり得ません。それにも関わらず、安倍首相は、トランプ政権による軍事的威嚇に追随し、安保法制に基づく米艦防護まで強行しました。彼は自ら北朝鮮の脅威を煽動し、政権の人気取りに利用しています。
安倍政権はこれまでも一貫して、北朝鮮や中国の脅威を煽り、それを軍備増強のために利用してきました。尖閣諸島防衛を口実に、沖縄・辺野古の新米軍基地の建設を正当化したり、南西諸島への自衛隊の配備を進め、中国に対する盾にしようとしています。自衛隊と米軍の一体化や基地機能の強化も進行しています。自民党はミサイル防衛の強化や敵基地攻撃能力の保有を提言し、政府もその方向に動き出しています。また、5年連続で軍事費を増大させ、今まで維持されてきたGDP比1%以内という枠組みも無視することを表明しています。
さらに深刻なのは、多くのマスメディア(とりわけテレビ)が安倍政権による隣国の「脅威」の大げさな強調を無批判に報道し、それが多くの市民に悪影響を与えていることです。そこでは、在日米軍基地を抱えた日本列島が、いかに近隣国に脅威を与えているのかという視点は見当たりません。例えば、横須賀基地に配備されている米艦には、北京やピョンヤンをピンポイント攻撃できる巡航ミサイルトマホークが24時間の発射態勢に置かれています。私たちは、軍拡競争を進める各国の権力者と市民を区別し、軍備増強に投じられる予算を人々の福祉のために回せ、と要求しなければいけません。
東アジアに必要なのは戦争予防のアプローチです。冷戦を終わらせるために、米朝は休戦協定を平和協定に置き換えるための真摯な交渉に入るべきです。そのために、六カ国協議を再び機能させるべきです。また、北朝鮮の核開発をやめさせると同時に、日本も米国の核兵器への依存から脱却しなければいけません。東北アジア非核地帯の実現に向けた交渉もスタートさせるべきでしょう。
次に、日本の軍事化の現局面をお話しします。現在始まっているのは、日本版の「軍産学複合体」づくりです。2014年4月に武器輸出禁止三原則が撤廃されました。安倍政権は武器と原発の輸出を経済成長戦略に位置づけています。まさに「悪魔の成長戦略」です。武器輸出解禁から約3年、武器本体の輸出こそ苦戦していますが、武器の共同研究や共同開発は着実に進展しています。2004年から先行的に始まったミサイル防衛の日米共同開発は、イージス艦から発射するSM3ブロック2Aという新型ミサイルの共同生産に移行しつつあります。このミサイルは欧州や中東にも配備されるでしょう。また、英国との間で、F35戦闘機などに搭載する新型の空対空ミサイルの共同研究が進んでいます。現在はまだ水面下にあるものの、昨年6月には、イスラエルと無人偵察機の共同研究をするという企てさえ発覚しました。さらに、今国会には中古の武器を無償か安価で輸出するための法律が出されています。東南アジアに対潜哨戒機や輸送車両などを輸出することが想定されています。これは、米国による対中包囲網づくりを一部肩代わりするものです。
安倍政権はさらに、米国製の高額兵器の購入も拡大させています。5月にはグアムで初の日仏米英の共同軍事演習が行われ、今秋には米軍の無人攻撃機リーパー(死神)が厚木基地でデモフライトを行います。
もう一つは軍学共同の動きです。防衛省が創設した、大学などでの軍事研究への助成金制度の予算は、2015年度3億円、2016年度6億円から2017年度には一気に110億円へと激増しました。研究費不足に苦しむ研究者の弱みにつけこむものです。
こうした動きの狙いは、昨年8月に防衛省が公表した「防衛技術戦略」などの3文書に示されています。今後20年をみすえて優先すべき武器開発の分野として挙げられている無人化、人工知能などは、民間技術の取り込みによる武器の革新(イノベーション)で軍事的優位を確保するという、米軍の「第3の相殺(オフセット)戦略」に対応しています。自動制御や人工知能など優れた先端技術を持つ民間企業や、大学などの研究者を武器開発に組み込んで「オールジャパン」体制を作り、日米の武器開発の一体化を加速させるものです。また、見逃せないのは、初めて戦闘型無人機の開発を表明し、アフリカなどの紛争地域での運用を構想していることです。ジブチにある海上自衛隊基地を中東、アフリカをにらむ「対テロ戦争」参加の拠点として整備する動きも始まっています。
「安保法制」を成立させて、日本は「戦争できる国」になりました。現在進んでいるのは、さらに「戦争を欲する国」になろうとする動きです。それを止めるために私たちがとっている手法は「レピュテーションリスク」を最大化することです。日本の軍需企業の軍需部門の比率は、三菱重工などでもせいぜい10%前後に留まっており、ほとんどは1ケタです。武器輸出することによって、企業のブランドイメージに傷がつくということを伝えるのです。ハガキやファックスなどを直接企業に届けるキャンペーンに力を入れています。大学に対しても同様に、軍事研究の容認がイメージダウンにつながることを訴えています。
軍学共同の動きに対しては、「科学者の国会」と言われる日本学術会議が、3月に軍事研究に反対する新たな声明を発表しました。1950年、1967年の「戦争目的の研究はしない」との2つの声明を「継承」するもので、軍事研究制度への応募を抑止する効果が期待されています。日本に戦争するためのインフラとなる「軍産学複合体」を作らせない闘いはここ1~2年が正念場です。
安倍首相は憲法記念日の5月3日、極右団体の集会にあてたビデオメッセージで「東京オリンピックが行われる2020年に、改正した憲法を施行したい」「現行の憲法9条に自衛隊を位置づける第3項を追加したい」と表明しました。憲法違反の安保法制を合憲化し、海外での武力行使を拡大させる狙いは明白です。
2015年夏の「安保法制」に反対する運動は12万人による国会包囲など大きな高揚を見せました。その柱となったのは「立憲主義を守れ」との主張です。憲法は権力を縛るものであるとの認識が人々に広く共有されました。自らの「レガシー」作りのために、立憲主義を踏みにじり憲法の平和主義を壊そうとする安倍政権を、野党と市民の共闘によって来るべき衆議院選挙で退場に追い込まなければいけません。
そして現在、政府与党は共謀罪法案の成立に向けてなりふり構わず動いています。「現代の治安維持法」とも呼ばれるこの法案は、犯罪が実際に行われなくても、話し合うことだけで罪に問われるものです。政府が掲げる「テロ対策」とはまったく無関係であり、盗聴など警察の不当な捜査が一気に拡大し、市民の運動が萎縮することは必至です。政府に反対する市民運動を一網打尽に弾圧することすら可能にする極めて危険なものです。廃案に追い込むための運動が連休明けに本格化します。
軍国主義を強め、独裁化する安倍極右政権を一日も早く退陣に追い込むことが、東アジアの脱軍事化のためにも不可欠になっています。そのうえで、武器輸出禁止の復活やグローバルな武器取引規制、紛争解決への仲介など、憲法9条の理念を具現化した外交・安全保障政策を推進する政府を作り上げたいと思います。
その程度の比率なら「軍需企業」と言わないのでは?
(民需のほうが圧倒的に多いわけだし)