【資料】「徹底討論 佐藤丙午 VS. 杉原浩司 日本の武器輸出と防衛装備庁の設置」レジュメ |
<「武器と市民社会」研究会 第41回会合 「徹底討論 佐藤丙午vs.杉原浩司:日本の武器輸出と防衛装備庁の設置」>
私はなぜ武器輸出に反対するのか 2015年11月24日
防衛装備庁は「武器輸出庁」~その問題点は何か
杉原浩司
1. はじめに~この国の悲惨な光景
・ラムズフェルド、アーミテージへの勲章授与~カーチス・ルメイ(東京大空襲の指揮官)への授与に次ぐ恥辱
ラムズフェルド=「彼は国防総省を変革する使命を持った歩く軍産複合体だった」(ジェゼフ・シリンシオーネ)
本来なら国際人道法違反のイラク戦争を引き起こした戦争犯罪人として、国際刑事裁判所(ICC)で裁かれるべき人物。私たちは異常な社会に生きている。
2. 終わりなき「対テロ戦争」で潤う軍産複合体
<オバマによる「武器バザール」> ※「デモクラシー・ナウ」(米国の独立メディア)より
国際政策研究所の武器取引専門家ウィリアム・ハートゥングによれば、オバマ大統領が最初の5年間で認可した武器輸出の額は1690億ドル以上に達し、すでにブッシュ政権の8年間における総額を300億ドルも上回っている。第二次大戦後のどの大統領より多額の武器輸出を承認した。
「その6割は中東に輸出され、最大の輸入国はサウジアラビア。数年間で膨大な量の兵器を購入した。そのサウジは3月に隣国イエメンへの爆撃を開始し、市民に多大な被害を与えながら攻撃をエスカレートさせている。ヒューマンライツ・ウォッチ(HRW)によれば、クラスター爆弾のような非人道的兵器も使用され、米国製の武器が市民の無差別攻撃に使われている。サウジはバーレーンで民主化を粉砕し混乱に陥れた。米国は軍政下のエジプトにも武器輸出を再開。悪影響が広がり、もはや手をつけられない。どの陣営にも米国製兵器があり、もうぐちゃぐちゃです。米国の兵器で敵が武装。まるでブーメランです」
「オバマ大統領は無人攻撃機の同盟国への販売を許可すると表明。無人機の輸出が条件付きで可能に。一旦売られたら米国が管理するのは困難。特に湾岸諸国に売った場合はイエメン攻撃に使われる可能性が高い」「人権状況の審査などで制限をかける国務省の管轄から、輸出を推進するだけの商務省へと多数の品目を移した。無許可で輸入できる国が増え、密貿易の中心地となるでしょう。米国の防衛には逆効果ですが業界の夢はかないます」「政界は献金で溢れかえり個別の流れはつかめません。議会は問題ある輸出案件に反対し、市民団体も反対の声を上げないと国民の大半は気づきません」
「ロッキード・マーチン社のCEOマリリン・ヒューソンは、決算報告会で「たとえイランと和解しても、中東全体の不安定は続くので心配はありません。中東各国は国防の強化を痛感しているため、我が社にとっては“成長市場”です」。紛争や国際緊張によって儲ける会社ですと公言しているわけですが、彼女が「もう一つの成長市場」として挙げる地域はアジア太平洋。「北朝鮮をめぐる不穏な情勢が続き、日中間にも緊張が走っている東アジアには、成長市場として期待をかけている」と。
(「デモクラシー・ナウ」4月7日放映)
<仏軍需産業の悪乗り>
全然人気のなかったフランス製戦闘機「ラファール」が空爆を始めたことによって売れ始め、今年に入り、エジプト、カタール、インドが契約。アラブ首長国連邦が60機の契約を検討へ。
<BAEが発展途上国に与えた破壊的影響~南アフリカ>
※『武器ビジネス』(アンドルー・ファインスタイン、原書房)より
「約3億ドルは、仲介者や大物政治家、高官、彼らの仲間、そしてANC(アフリカ民族会議)自体への手数料と賄賂に支払われた」「エイズにかかった南アフリカ人ひとりを生かすために使われた1ランドにつき、7.63ランドに相当する金額が武器取引についやされたことになる」
「ハーヴァード大学の研究によれば、内輪に見積もっても、(武器)取引後の5年間に36万5千人の南アフリカ人が避けられたはずの死で亡くなっている」
「南アフリカは武器に支出された金額で200万軒近い家を建設するか、あるいは110万人の用務員と清掃係を雇用することができただろう」
「(南アフリカで)おかしくなっていることの大半は、武器取引に端を発している」
「防衛装備・技術移転に係る諸課題に関する検討会」報告書
第1章(2)国・地域別の方針④「中東・新興国その他の国々」
「資源・エネルギーの多くを依存している中東地域の安定は不可欠であり、安全保障政策の全体像の中で、防衛装備・技術分野でどのような貢献が可能か模索する必要がある。また、ブラジル、南アフリカといった新興国については、安全保障上の意義を踏まえながら、国際経済のみならず、国際政治においてもその影響力を増しつつあることを考慮に入れる必要がある」
南アフリカを笑えない日本
・子どもの貧困対策のために募金を呼びかける国
・切り下げられる生活保護や就学援助
・人権侵害で名高い独裁者が牛耳る中央アジアに2兆2000億円規模の経済協力へ
3. 「モラル・ハイグラウンド」(道義的高み)からの堕落~倫理のかけらもない防衛装備庁
<NHKスペシャル「ドキュメント武器輸出」(2014年10月5日放映)から見えるもの>
(フランス軍事企業)
「アフリカの部隊からメイドインジャパンの製品を送ってくれと言われているんだ」
(イスラエル軍事企業)
「日本の技術は世界ナンバーワン。大きなビジネスチャンスになる」
堀地徹・防衛省装備政策課長(当時、現防衛装備庁装備政策部長)
「イスラエルの実戦を経験した技術力を日本に適用することは、自衛隊員のためにもなるし、周りの市民を犠牲にしないで敵をしっかり捉えることは重要。(イスラエルの)機体と日本の技術を使うことでいろいろな可能性が出てくると思う」
・2014年夏のイスラエル軍によるガザでの2000人以上の虐殺(その内、子ども約500人以上が死亡)を知らないのか。
・日本が一部の部品を製造するF35戦闘機を将来的にイスラエルが購入することに。
→ 一発退場、出場永久禁止ものの暴言
・カタールへの第3国輸出が決まっているPAC2ミサイルの対米輸出を認可
日本からの輸出が「ライセンス元への納入」に該当する場合、日本側の事前同意なしに第3国移転できるとの例外規定。早くも露呈した抜け穴=塞ぐ意志は毛頭なし
ケビン・メア(元国務省日本部長)
「アメリカに部品を供給すれば、どこに輸出されるか追跡する術はない。アメリカはそれ(追跡)を決して認めないでしょう」
堀地徹
「アメリカのミサイルに組み込まれた瞬間に消費されたとみなして、そこから先はアメリカがしっかり管理するのでいいということで追跡しないことにした」
→ 一発退場、出場禁止ものの暴言
「日本の防衛省とアメリカ国防省の間で、パトリオットの部品はこうやって管理しますとアメリカから話を聞いているので、日米間の信頼として使っていける」
Q 実際に日本の部品が戦闘行為に使われる可能性は否定できないですか?
堀地徹
「これは装備移転、装備品ですから、最終的に軍隊は戦闘することで目的を達成するので、戦闘行為に使われることは当然あり得ると思います。それがどういう目的の戦闘行為なのかは、国際社会が見ているので、国際社会の取り組みを見ながら、日本が判断することは可能だと思います」
畠山襄(のぼる)通産省航空機武器課長(当時)
「武器輸出三原則があったから断れたけど、あれがなかったら続出する可能性に耐えられたかどうか。もしそれがなくて、武器外交というものを十分に展開できることになるとその時に断れるのか、断れないんじゃないか。際限なくいくんじゃないか。"下衆の勘ぐり"であることを祈りますけど。そういう恐れを感じてましたね。戦争が起きて武器が売れるといいなと思うような産業界の人を作りたくない」
<防衛装備庁技術シンポジウム(11月10日)でのやり取り>
杉原
「オバマ政権による中東への大量の武器輸出が、現在の中東の惨状の要因の一つだとも言われている中で、今頃になって武器商戦に参入するというのは時代遅れではないか。武器輸出三原則を取り戻し、武器取引の厳格な規制にこそ役割を果たすべきだ。また、武器輸出三原則は衆参両院の国会決議に裏付けられていたのに、閣議決定のみで撤廃した。これは撤廃に反対する民意と国会を無視するもので認められない」
池松英浩・防衛装備庁装備政策部国際装備課長
「明確にお答えします。他国との関係強化と国際社会への貢献のためにやっている。また、内閣も国民から選ばれた人がやっており、民主的プロセスにのっとってやっている」
※憲法9条理念に基づく「国是」の変更。衆参両院の国会決議、ないしは国民投票で決めるべき
4. 日本の優れた民生技術が米国やイスラエル等の無法かつ非人道的な無人機(ドローン)戦争を支援
<Nスペ「ドキュメント武器輸出」より>
・従業員20人のレンズメーカー
10枚以上のレンズを手作業で組み合わせ、高い精度の望遠レンズを製造10キロ以上先も赤外線フィルターにより鮮明に捉えることができる
~最先端と言われる日本製高性能レンズが世界中の軍隊に拡散し、無人機に搭載されるカメラなどに組み込まれている
・米の仲介業者~30キロ先まで見える高性能のレンズを扱う。
「日本製品はもう芸術だ」「レンズの行き先はわからない。想像はつくが聞かないことにしている」
・GPSの妨害に対処する画像ジャイロ技術の日米共同技術研究(防衛装備庁シンポでも展示。既に研究は終了)
<暴かれる無人機戦争の闇>
・映画「ドローン・オブ・ウォー」
・「インターセプト」(ジェレミー・スケイヒル)による機密文書の暴露
アフガニスタンで2012年5月~9月までに無人機攻撃により殺害された人の9割近くが別人。
・来日した米無人機攻撃被害者のナビラ・レフマンさん(11)の訴え
「攻撃と復讐を繰り返しても解決に向かわない」「安易に戦争に向かっても平和は絶対にやってきません」
・パキスタンで空爆で殺害された3989人のうち、965人が民間人(英非営利団体「調査報道局」)
・米空軍の元無人機パイロット4人の告発
「我々が罪のない民間人を殺していることは、憎しみの感情を高ぶらせ、テロやISのような組織を刺激しているだけだ」「(無人機攻撃は)テロと世界の不安定化の最もひどい推進力の一つになっている」「パリを攻撃したような人たちが生まれることを防がなければならない。我々が彼らの正当性を認めてしまっている」
5. 「保護産業」から「過保護産業」へ
<日本経団連提言などの諸提言~おねだり要求を乱発>
・貿易保険~損失を血税で穴埋め、対外投資支援制度など ※原発輸出と同様
~そこまでして武器輸出しなければいけないのか。
6. 腐敗の構造にメスは入るのか
・天下りの恒常化~2014年度に天下りした一佐以上の幹部自衛官は149人
・三菱電機による巨額の水増し請求事件~責任追求は十分だったか。再発防止策は十分か。
・会計検査院による指摘(費用対効果を人件費を含まず算定など)
・防衛装備庁内に「監察監査・評価官」20人~身内によるアリバイ監査の限界は明らか
7. 求められること
・オーストラリアへの潜水艦輸出の中止
・防衛装備移転三原則による認可案件の撤回
・防衛装備移転三原則の撤廃と武器輸出三原則の復活・強化
・民生品、軍民両用(デュアルユース)品の輸出規制~レンズ、サーチライト、タフブックなど
・武器貿易条約(ATT)の抜本的強化
・軍民転換の促進~どこよりも軍民転換しやすい国ニッポン
・東アジアの軍縮、非核兵器地帯
・安保法制=戦争法の廃止
・「能力構築支援」という名の軍事援助の中止
・軍事版ODAの撤回
・スパイ(偵察)衛星の増強計画の撤回
・科学技術基本計画への「安全保障の技術開発」部分の削除
・防衛省による軍事研究公募の中止
・辺野古新基地建設の即時中止を
・偽物の「積極的平和主義」から「良心的軍事拒否国家」(難民支援、武器輸出の規制、災害救助、環境保全など非軍事で貢献)へ
8. 終わりに~科学者・技術者の社会的責任
・防衛装備庁の武器技術展示での説明員への質問
杉原「ミサイル防衛用の迎撃ミサイル「SM3ブロック2A」の第3国輸出の可能性は?」
説明員「私は開発担当なのでわからない。運用に聞いてください」
※2007年放映 NHKドラマ「ハゲタカ」より
大手電機メーカーの光学レンズ部門の米軍需ファンドへの売却を、従業員による独立(EBO)によって阻止したベテラン特級技能士の言葉
「われわれ技術者も、技術が何のために使われているのか、責任を持って感じ続けなきゃいけないと思う」。
「20世紀のあいだに、武器取引は2億3100万人もの命を奪った紛争を実行可能にし、それを焚きつけてきた。21世紀の最初の10年は、それにもまして暴力的だった」(アンドルー・ファインスタイン)
【参考文献】
『武器ビジネス~マネーと戦争の最前線』上・下(アンドルー・ファインスタイン、原書房)
『アメリカの卑劣な戦争』上・下(ジェレミー・スケイヒル、柏書房)
「日米防衛産業協力の現状と課題」(佐藤丙午、『海外事情』2015年10月号所収)
『ロッキード・マーティン~巨大軍需企業の内幕』(ウィリアム・D・ハートゥング、草思社)
『ロボット兵士の戦争』(P・W・シンガー、NHK出版)
『武器輸出三原則はどうして見直されたのか』(森本敏、海竜社)
『ブッシュの戦争株式会社』(ウィリアム・D・ハートゥング、阪急コミュニケーションズ)
『「積極的平和主義」は、紛争地になにをもたらすのか?』(谷山博史、合同出版)
『自衛隊の転機~政治と軍事の矛盾を問う』(柳澤協二、NHK出版新書)
『経済的徴兵制』(布施祐仁、集英社新書)
『ジャーナリズム Journalism』11月号「特集 どうして?公明党、どうなる?自衛隊」(朝日新聞社)
『オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史』1.2.3.(ハヤカワノンフィクション文庫)
『9.11と9条~小田実平和論集』(小田実、大月書店)
『宇宙開発戦争―〈ミサイル防衛〉と〈宇宙ビジネス〉の最前線』
(ヘレン・カルディコット他著、日本語版解説:杉原浩司、2009年、作品社)